ハウスみかんはなぜ甘い?温度で操る呼吸の話。(後編)
前編では、みかんが呼吸する生き物であること、そして気温が高くなると呼吸が速くなって甘さが削られていくことをお伝えしました。
では、農家はこの「呼吸」をどうコントロールしているのか。それが、ハウスみかんの甘さを決める本当の答えです。
この記事でわかること
- ▶農家が昼と夜で温度をどう使い分けているか
- ▶なぜ毎年同じ管理では通用しないのか
- ▶収穫後もみかんの甘さが変化し続ける理由
- ▶産地直送にこだわる理由
みかんの呼吸と甘さの仕組みは、前編でお届けしています。
農家は、昼と夜を使い分けている。
ハウスみかんの甘さを引き出す技の一つ、温度管理。
昼間のハウスの中では、みかんの木が光合成をして糖分を作り出します。太陽の光をたっぷり浴びて、甘さの素をゆっくりと蓄える時間です。夏場のハウスは外気よりも蒸し暑くなりやすく、換気と加温のバランスを取りながら、甘みを最大限に引き出す条件を一日かけて整えていきます。
夕方になると、作業の中心は「休ませること」に移ります。ハウスの換気を調整しながら温度をじっくりと下げていく。呼吸のペースを抑えて、昼間に作り出した甘さが消費されないように、みかんをそっと休ませてあげる。0.5℃単位で調整しながら、その夜のベストな温度を探します。
夜中に一度、ハウスの中を確認しに行くこともあります。温度計の数字だけでなく、ハウス内の空気の感触、葉のつや、実の表情。それらをまるごと受け取りながら、翌日の管理を頭の中で組み立てていく。農家の一日は、夜も終わりません。
特にハウスみかん夏織の仕上げの時期は、酸味を抜きつつ甘みを最大限に引き上げるために、日々の気温とにらめっこしながら細やかな温度管理を行っています。

樹も、暑さに「慣れて」しまう
少し面白い話があります。
暑い日が続くと、みかんの木は少しずつ暑さに体を合わせていきます。「今日もこのくらいか」と慣れてくると、同じ温度でも呼吸の仕方が変わってくる。
これは、人間が暑い季節を繰り返すうちに汗をかくのが上手くなるのと、少し似ています。樹も生きていて、環境に合わせて変化する。
だから農家は毎年、「今年の樹はどんな状態か」を読みながら温度管理を調整します。去年と同じやり方が、今年も正解とは限りません。
この読み解きに、1年2年で答えが出るわけではありません。何年も何年も試行錯誤を重ねながら、少しずつ「今年の樹の声」が聞こえてくるようになっていく。農家にとって、それは一生かけて習得し続ける技術でもあります。
そして、ここに唐津・浜玉という産地に根ざして育てることの強みがあります。
佐賀県はハウスみかんの全国生産量の約34%を占める、日本一の産地です。なかでも唐津市は県内でも突出した主産地として知られています。この土地に農家が集まり、長年ハウスみかんを育ててきたということは、産地全体に積み重なった知恵があるということです。
生産者の数だけ、試行錯誤の記録がある。あの農家はこの時期にどう動いたか、今年の気候の傾向はどうか。産地の中で知恵が積み重なることで、一人では何十年かかっても追いつけない経験値が、少しずつ共有されていく。唐津のハウスみかんが日本一でいられ続ける理由は、この土地に根ざした農家たちが積み重ねてきた、終わりのない試行錯誤の力にあるのです。
収穫した後も、みかんは呼吸をしている。

収穫を終えたみかんも、まだ生きています。箱に詰められ、佐賀県唐津市浜玉町のハウスを出て、あなたの手元に届くまで、ずっと呼吸を続けています。
だから収穫の直後にすることがあります。みかんを素早く冷やすことです。ハウスの外は夏の暑さ。温かいままにしておくと呼吸が一気に速くなり、せっかく蓄えた甘さが削られていってしまう。収穫後できるだけ早く温度を下げて、みかんの呼吸を落ち着かせる。育てるときだけでなく、収穫した瞬間からも、温度との向き合いは続きます。
時間が経つほど、呼吸によって甘さは少しずつ変化していく。だから私たちは、収穫してからできるだけ早く、産地直送でお届けすることにこだわっています。
そしてようやく、前編の疑問に戻ります。
冷やしたみかんをゆっくり味わっていると、体温でじわじわ温まるにつれ、甘さがふっと膨らみ、柑橘のやわらかな香りがふわりと立ち上がってくる。みかんの甘さと香りは温度にとても敏感で、口の中で温まるにつれ、より豊かに感じられるようになっています。最初のひんやりとした清涼感、そして後からじわりと開く甘さと香り。冷やして食べることで、その両方を順番に楽しめるのです。
大場農園では、わたしたちのハウスみかんに、「夏織(なつおり)」という名前をつけました。冬にハウスを加温して作り出した「人工の夏」を越え、本物の夏(5〜8月)に収穫を迎える。二度の夏のエネルギーを織り込んで育つ夏織。食べ頃をお約束する、大場農園のブランドみかんです。

潮風が吹く土地で、手塩にかけて育てたハウスみかん「夏織(なつおり)」。温度管理の積み重ねが詰まった一玉を、ぜひ冷やしてお召し上がりください。
このブログの元になった、代表・大場博紀のnoteはこちらから読めます。
この記事のまとめ
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1
みかんは呼吸する生き物。気温が10℃上がると呼吸のペースは約2倍になる。 -
2
呼吸が速くなると糖分・酸が消費され、甘さが削られていく。 -
3
農家は昼に甘みを作らせ、夜に温度を下げて甘さを守る。0.5℃単位の温度管理が甘さを決める。 -
4
樹も暑さに慣れるため、毎年同じ管理では通用しない。農家はその年の樹と対話しながら調整する。 -
5
収穫後もみかんは生きている。産地直送にこだわるのは、最も美味しい状態で届けるため。
「ハウスみかん」はみかん全体のたった2.5%の、流通量の少ない、希少な柑橘です。
みかんの旬の情報をチェックいただくと、いちばん美味しい瞬間を逃さずにお求めいただけます。

