みかん農家が解説。みかんの苗木が「しんどそうな顔」をしている理由

「いつか、みかんを自分の庭で育ててみたいな」
一戸建てに住む人なら、一度はそう思ったことがあるのではないでしょうか。
庭の片隅に木が一本。旬が来ればオレンジ色の実がなって、自分で収穫して食べる。
時には遊びに来たお孫さんたちがキャッキャと言いながら収穫する。
想像するだけで、なんだかあたたかい気持ちになる光景です。

でも…。
ちゃんと育てられるかな。
枯らしてしまったら、かわいそうだな。
そんな不安で、今年もまたホームセンターの苗木を横目に、素通りしてしまっていませんか。
また、思い切って植えてみたけれど、なんだか木の様子がおかしい…と心配しているかたもいるかもしれません。
今回は、みかんの苗木を植えた直後に「地面の中」で起きていることを解説します。
なぜ元気がなくなるのか。何をすれば回復するのか。農家3代目として、できるだけ正直にお話しします。

植えたばかりのみかんの根は「傷だらけ」

新しい場所に植えられたばかりのみかんの苗木。
その根っこ(細根:さいこん)には、見えないところで無数の細かな傷がついています。
畑から抜いて、運んで、穴に入れる。その工程だけで、すでに傷は入っているのです。

傷ついた根はすぐに修復を始めます。傷口の周囲で細胞分裂が起き、「カルス」と呼ばれる癒傷組織(ゆしょうそしき)が形成されます。人間が怪我をしたときの「かさぶた」をイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。
このカルスを土台に、やがて新しい根が伸び、水や養分を運ぶ管(維管束)が再接続されていく。根の再生は、こんなに丁寧な順番で、少しずつ進んでいきます。

ただ、みかんをはじめとする柑橘の木は、他の果樹に比べても細根がとても繊細。回復にはどうしても時間がかかります。低い地温、水はけの悪さ、濃すぎる肥料…それだけで、回復のペースがぐっと落ちてしまうのです。

「土は湿っているのに、木がしんどそう」の正体

植えたばかりの苗木を見ていると、こんな場面に出くわすことがあります。
土は湿っているのに、葉が少しぐったりしている。
「水が足りないのかな」と思ってたっぷり水をあげたのに、さらに元気がなくなった……。
これ、農家あるあるの「謎のしおれ」です。
原因はずばり、”水ポテンシャルの乱れ”。
難しく聞こえますが、要するに「根が水を吸い上げる力が弱くなっている」ということです。
移植した直後は、根と周囲の土のあいだに小さな隙間ができます。水は土の中にある。でも根が土とうまく接触できていない部分は「吸えない」状態になる。
一方、地面の上では…。


青々と茂った葉は、日が当たれば光合成をして、葉から水分をどんどん蒸散させています。
水は出ていくのに、入ってこない。
だから、木の中の水分が減って、萎れてしまうのです。

<画像:植えたばかりの苗木の葉がやや萎れている様子。土は湿っているが葉がぐったりしている。「謎のしおれ」の状態を視覚的に示すイメージ>


これを踏まえて、まずやるべきことはひとつ。「どぶ灌水」(※灌水=農家用語で「水やり」)です。
大量に水を流し込んで、根と周りの土の隙間をなくし、水の通り道をしっかりつないでやる。これが最初の大事な一手です。
そしてこの時期、肥料はほぼ不要です。
根は今、「傷の修復」と「最低限の吸水ルートの確保」で精一杯の状態。栄養を与えても吸えないどころか、浸透圧の関係で逆に根を傷めてしまうことがあります。よかれと思ってやることが、裏目に出やすい時期です。

もうひとつ、やってはいけないこと

「乾いたかな」と思ってからの大量灌水、これも要注意です。
極端に乾かした後にどっと水を与えると、細根の先端がダメージを受けやすくなります。逆に水をやりすぎて過湿状態が続くと、酸素不足になって根が腐り始める。
土は湿らせすぎず、乾かしすぎず。
手でつかんだときに「少しまとまって、でもギリギリ崩れる」くらいが、ちょうどいい目安です。
また、粘土質の土はもともと水はけが悪いため、植える前に堆肥を混ぜて土をやわらかくしておくことが大切です。

2〜3週目、ようやく「新しい根」が動き出す

うまく管理できると、定植後2〜3週目頃から、根の先に白くて細い新根が見え始めます。
カルスから分裂組織が活性化して、ようやく新しい根が伸び始めた合図です。
このタイミングで、地上部にも変化が現れます。新しい枝の芽(新梢:しんしょう)が動き出し、葉の色がしっかりとしてくる。
根と地上部は連動しています。だから、「枝が動き始めた=根が回復してきた」と読むことができる。逆に「新梢の動きが鈍い株は、根の回復が遅れているサイン」でもあります。
地面の中は見えません。でも、木の表情は正直です。農家はそこを毎日読んでいます。

■農家流、みかんの苗木を植える時のポイント

ここまで読んで「やっぱり植えてみたい」と思ったかたのために、基本的な手順もまとめておきます。
<画像:農家が苗木を植え穴に丁寧に置いている様子。根を放射状に広げているところ。手元のアップ、土の質感がわかる写真>

みかんの苗木を植える手順
1.土づくり
植える場所を耕し、苦土石灰(2掴み程度)と堆肥(10kgほど)を混ぜて2週間放置する
2.苗選び
植える場所を耕し、苦土石灰(2掴み程度)と堆肥(10kgほど)を混ぜて2週間放置する
3.穴をホル
深さ5cm程度の浅い穴を掘る(深く掘りすぎると接ぎ木部が埋まり、自根が出て実がつきにくくなる)
4.苗を植える
根を放射状に広げて置き、水をたっぷりかけてから土をかぶせる
5.土は何度も
土が沈んだら何度か足して、根と土の密着を高める
6.一年生苗は輪状芽の下で剪定。二年生苗は枝を最大3本に整理する
一年生苗は輪状芽の下で剪定。二年生苗は枝を最大3本に整理する
※輪状芽(りんじょうが)とは、竹の節のように少し膨らんだり、シワが寄ったりしている境界線があり、このシワの周りに肉眼では見落とすほど小さな「芽の赤ちゃん(潜伏芽)」が、リング状に何個か並んでいます。これが「輪状芽」です。輪状芽からは強い枝が出るので、まだ体力のない一年生苗は、木の勢いに根が負けてしまわないように、輪状芽より下で剪定するというわけです。
7.支柱を立てる
倒伏防止のために支柱を立てます。麻紐などで軽く結んであげると安心です。

結局、みかんが実るまでに何年かかるのか

ここまで読んでくださったかた、うすうすお気づきかもしれません。
みかんの苗木を植えてから、安定して収穫できるようになるまでは時間がかかります。だいたい5年ほど。
最初の2年は根の確立と樹形づくりに専念する時期。3年目から少しずつ実がつき始め、安定した収穫ができるようになるのは5年目前後。その間に、地温管理、灌水のタイミング、施肥の量、剪定の判断……毎年の積み重ねがあります。
農家というのは、5年後の木の姿を想像しながら、今日の一手を決めている仕事なのかもしれません。

もっとマニアックに知りたい方へ


このブログは、大場農園の代表・HIROがnoteに書いたマニアックな生育記事をベースに書きました。
専門用語が並んでも全然OKな方は、ぜひ元記事もどうぞ。
▶ プロの柑橘農家が解説!みかんの苗木を植えた直後、土の中で起きていることと失敗しない育て方

大場農園note(ここに表示したい文字を入力してください)

そわそわワクワク待ち長い5年間。畑直送のみかんをどうぞ。



みかんの木を育てることへの憧れは、みかん農家としてとても嬉しい気持ちいっぱいです。ぜひ、挑戦してみてください。
採れたての柑橘の香りは、本当に格別です。

庭のみかんを楽しみに待つ5年間。よければその間に、店頭とは一味違う、畑からそのまま届くハウスみかんを食べてみてください。もぎたての味がどんなものか、きっと想像が膨らむと思います。

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