エチレンとは?りんご・バナナ・みかんの熟し方を、みかん農家が絵本で解説

みかんについて
エチレン 果物 絵本 みかん 夏織

キッチンのかごに並んだ、りんごとバナナ。あれ?いつもよりバナナが早く茶色くなった!そんな経験をされた方はいませんか?

じつはこれ、りんごのしわざです。果物を早く熟させるのは、果物自身が出す「エチレン」という目に見えないガス。そして、私たちが育てているみかんは、このエチレンを自分ではあまり出さない、少し変わった果物でもあります。

植物の体の中では、こうした小さな「合図」が毎日たくさん行き交っています。今日はその合図たちを、1冊の絵本にしてみました。佐賀県唐津市、海のそばでハウスみかんを育てている大場農園がお届けします。

この記事でわかること
  • ●エチレンとは何か、りんごとバナナを一緒に置くと早く熟す理由
  • ●みかんがエチレンで追熟しないわけと、すっぱいときは少し置くとよい理由
  • ●葉が傷ついたときに鳴る警報「ジャスモン酸」と、エチレンとの関係
  • ●ハウスみかんの皮に、ほんのり緑が残るわけ

植物ホルモンとは?植物の中の小さな連絡係

植物ホルモンとは、植物が自分の体の中で作る、ほんの少しの量でよく効く物質のことです。ある場所で作られて、体の別の場所や細胞に「今こうしなさい」と知らせます。人間の世界でのメールやLINEのような連絡係です。

植物は動けません。それでも、実を熟させたり、葉や実を落としたり、虫に食べられたら守りを固めたり。そうした暮らしの切り替えを、植物ホルモンの合図で行っています。

この絵本には、そんな植物ホルモンが2つ登場します。

エチレンくん

エチレンくん
果物に「熟しなさい」「葉や実を落としなさい」と伝えるガス。植物ホルモンの中でいちばん小さい

ジャスモン酸ちゃん

ジャスモン酸ちゃん
葉が傷つくと「守りを固めて」とベルを鳴らす警報係。名前はジャスミンの花の香りから

物語にはほかにも、植物ホルモンを作る工場のなかまや、合図を受けて働くリーダーたち、果物たちが登場します。

第1話 りんごとバナナを一緒に置くと、なぜ早く熟すの?

エチレン 果物 りんご バナナ 絵本
ある日の夕方。
キッチンのかごの中で、りんごさんがおしゃべりを始めました。
「今日もいいかおり!」
そのたびに、小さなエチレンくんが、ふわりと飛び出していきます。
エチレンは、植物が自分で作る「植物ホルモン」のひとつ。ほんの少しの量でよく効く、植物の中の連絡係です。形は炭素2つと水素4つ(C2H4)だけ。植物ホルモンの中でいちばん小さく、軽いガスです。りんごは、熟すときにこのエチレンをたくさん出します。

エチレン バナナ 熟す 絵本
「お知らせでーす! じゅくしなさーい!」
エチレンくんの声を聞いたバナナくんは、
みるみる黄色くなっていきました。
「えっ、ぼくのこと?」
エチレンが伝える合図は「熟しなさい」「葉や実を落としなさい」。軽いガスなので、袋や箱の中なら、となりの果物にもすぐ届きます。りんごとバナナを一緒に置くとバナナが早く熟すのは、このためです。

エチレン みかん 追熟しない 絵本
エチレンくんは、かごのすみにいた夏織みかんにも声をかけました。
「きみもじゅくしなさい! もっと甘くなれるよ」
夏織みかんは、にっこり笑って答えました。
「ありがとう。でもね…
わたしの甘さは、木の上にいるあいだに育つの。
よかったら、わたしが育ったハウスに来てみる?」
エチレンくんは、うれしそうにうなずきました。
みかんは、りんごやバナナとちがって、収穫したあとに自分でエチレンをたくさん出して熟していく果物ではありません。エチレンを受け取っても、甘さのもとになる糖が増えることはないのです。だから農家にとっては、木の上でどこまで甘さをのせるか、いつ収穫するかが勝負になります。

ただし、収穫したあとのみかんの中では、酸が少しずつ減っていきます。すると、もともと実の中にあった甘さが前に出てきて、甘く感じられるようになります。「すっぱいときは少し置いておく」というのは、理にかなった食べ方なのです。

一方で、りんごのそばに置く必要はありません。りんごが出すエチレンは、エチレンで追熟しないみかんにとっては必要のない合図だからです。

第2話 エチレンはどうやって作られる?小さな工場の一日

エチレン 作られ方 工場 絵本
やってきたのは、海のそばのビニールハウス。
みかんの木の中には、エチレンくんが生まれる小さな工場がありました。
材料のメチオニンさんがとどくと、工場長のギアさんが言いました。
「さて、今日はどれだけ作ろうか」
一歩手前ちゃんをはさんで、最後は酸素ギアさんの出番です。
「すーっ、はーっ。酸素がないと動けないんだ」
エチレンは果物だけのものではなく、みかんの木をはじめ植物の体の中で作られています。材料は、タンパク質のもとにもなるアミノ酸「メチオニン」。植物の細胞の中では、2台の機械(酵素)がエチレンを作ります。1台目がエチレンの一歩手前の物質を作り、2台目がそれをエチレンに変える。作る量はほぼ1台目の働きで決まり、2台目は酸素がないと動きません。一歩手前の物質の一部は、貯金のようにしまわれることもあります。途中で出た余りの部品はリサイクルされて材料に戻るので、熟すときには一気にたくさんのエチレンを作れるのです。

エチレン 果物 作られ方 図解
エチレン工場のしくみ
ハウスみかん ビニールハウス みかんの木 エチレン
海のそばのビニールハウスで実る、ハウスみかん

第3話 ジャスモン酸とは?葉っぱの警報係が鳴らすベル

ジャスモン酸 植物 警報 絵本
工場の外では、みかんの葉っぱに、
いもむしくんがやってきました。
「いただきまーす…」
そのとき、カランカラン!
「葉っぱがきずついた! 守りをかためて!」
ベルを鳴らしたのは、ジャスモン酸ちゃんです。
ジャスモン酸は、植物の警報係。名前の由来はジャスミンの花で、その香りの成分(ジャスモン酸メチル)として見つかったことから名づけられました。材料は、葉の中の葉緑体(光合成をする緑色の部屋)の膜にある油。細胞の中の3つの部屋をリレーしながら形を変え、最後にアミノ酸がくっついた形が「カギ」になって、守りのスイッチを入れます。

ジャスモン酸 植物 警報 図解
ジャスモン酸は、植物の警報
ジャスモン酸 香り となりの植物 絵本
ジャスモン酸ちゃんの声は、
かおりに乗って、となりの木までとどきます。
「気をつけて!」
役目を終えると、ベルはぴたりと止まりました。
香りのガスになったジャスモン酸は、となりの葉や、となりの植物に警報を伝えることもあるそうです。役目を終えると別の形に変えられ、警報は止まります。剪定で枝を切ったあとの切り口でも同じように警報が鳴り、木は守りの物質を作り始めます。

第4話 エチレンとジャスモン酸は、協力もけんかもする

エチレン ジャスモン酸 リーダー ブレーキ 絵本
エチレンくんのチームにはインさん、
ジャスモン酸ちゃんのチームにはミックさん。
二人のリーダーのあいだには、しんちょうなジャズくんがいます。
「ストップ、ストップ! まだ動いちゃだめ」
植物の中には、それぞれのホルモンの合図を受けて働く「リーダー」役と、ふだんはそれを抑えている「ブレーキ役」がいます。ジャスモン酸側のブレーキ役は、エチレン側のリーダーにもブレーキをかけています。

エチレン ジャスモン酸 協力 カビ 絵本
ある日、カビのもふもふがやってきました。
「ふふふ、この木はいただき!」
ジャスモン酸ちゃんのベルでブレーキがはずれ、
エチレンくんがとどくと、インさんは元気いっぱい。
「ミックさん、いっしょに行こう!」
ジャスモン酸が来るとブレーキ役が外れ、そこへエチレンが来るとエチレン側のリーダーが元気になります。2つのホルモンがそろったとき、カビなどの病気を防ぐ遺伝子がいちばん強く働きます。アクセルとブレーキを同時に操るような、見事な連携です。

エチレン ジャスモン酸 けんか 虫 絵本
でも…
いもむしくんが来たときは、ようすがちがいます。
「虫の相手はぼくの出番だ!」
「いや、こっちだって…!」
二人は、引っぱり合いのけんかになってしまいました。
虫に食べられたときの守りでは、2つのリーダーがくっついて、お互いの働きをじゃまし合います。エチレンは、ジャスモン酸による虫への守りを弱めてしまうのです。植物が使える力には限りがあり、「虫への守り」と「カビへの守り」は中身が違うので、相手に合わせて片方に力を集めていると考えられています。

場面 関係 何が起きている?
カビなどの病気 協力する ブレーキが外れ、病気を防ぐ遺伝子がいちばん強く働く
虫による食害 けんかする エチレンが、ジャスモン酸による虫への守りを弱める
芽生えが土を押し分けるとき けんかする ジャスモン酸が、エチレンの作る「かぎ型の首」を作りにくくする
みかんの実が落ちるとき リレーする ジャスモン酸の合図のあとに実の中のエチレンが増え、実が落ちやすくなる

第5話 ハウスみかんの皮に、緑が残るのはなぜ?

ハウスみかん 青玉 皮 緑 絵本
季節は夏。
ハウスの中で、青玉がうつむいていました。
「ぼくだけ、まだ緑がのこってる…」
夏織みかんが、そっと言いました。
「だいじょうぶ。中身はちゃんとじゅくしてるよ」
みかんの皮がオレンジ色になるのは、皮の緑色(クロロフィル)が分解されて、もとのオレンジ色が見えてくるから。エチレンでもこの緑は抜けていきますが、木の上のみかんにとって大きなきっかけになるのは、気温が下がることです。冬のみかんは、秋から冬の冷え込みで色づきます。初夏から夏に実るハウスみかんは冷え込みを受けないぶん、中身は熟していても、皮に緑が残ることがあります。それが、大場農園の「青玉」です。見た目は若くても、中にはひと夏の時間がつまっています。

ハウスみかん 青玉 皮 緑 断面
皮に緑が残っていても、中はしっかりオレンジ色の青玉
ハウスみかん 換気 暖房機 排ガス 絵本
そんなハウスに、ときどき
もくもくさんがまよいこんできます。
「ごめんね。ぼく、エチレンくんと
同じようなことをしちゃうんだ…」
農家の人が窓を開けると、
もくもくさんはそっと外へ出ていきました。
暖房機の燃料がうまく燃えきらないと、その排ガスがエチレンと同じように植物に働いてしまうことがあります。閉めきったハウスでは、葉が落ちたり、色づきにムラが出たりする原因に。大場農園でも、経験上まさにその通りの動きになることを見てきました。だからこそ、換気と暖房機の点検は、ハウスみかん作りの基本です。

まとめ:エチレンと果物、みかんのよくある質問

Q

Q. エチレンとは何ですか?

A

A. 植物が自分で作る植物ホルモンのひとつで、果物を熟させたり、葉や実を落としたりする合図を伝えるガスです。炭素2つと水素4つだけの、植物ホルモンの中でいちばん小さな物質です。

Q

Q. りんごとバナナを一緒に置くと、なぜバナナが早く熟すのですか?

A

A. りんごが熟すときにたくさん出すエチレンが、バナナに「熟しなさい」という合図として届くからです。

Q

Q. みかんは買ったあとに甘くなりますか?

A

A. エチレンで追熟して糖が増えることはありません。ただ、収穫後のみかんは酸が少しずつ減っていくため、もともと実の中にあった甘さが感じやすくなります。すっぱいと感じたら、少し置いておくのは理にかなった食べ方です。

Q

Q. みかんをりんごと一緒に保存してもいいですか?

A

A. 一緒に置かないほうがおすすめです。りんごが出すエチレンは、エチレンで追熟しないみかんにとっては必要のない合図で、受け取っても甘さが増えることはありません。

Q

Q. ハウスみかんの皮が緑っぽいのはなぜですか?

A

A. 木になったみかんは、気温が下がることが色づきの大きなきっかけになります。初夏から夏に実るハウスみかんは冬のような冷え込みを受けないため、中身は熟していても皮に緑が残ることがあります。

絵本のおわりに

エチレン 果物 みかん 絵本 おわり
りんごもバナナもみかんも、
自分では動くことができないけれど、
毎日そっと送りあっている合図がある。
果物を食べるのが今よりもちょっと楽しみになる、
エチレンのお話でした。
おしまい。

私たち農家にできるのは、その声にそっと耳をすませること。空気を入れ替え、温度を見守り、木の上でいちばんおいしくなる瞬間を待つことです。みかんの甘さのもとは、木の上でしか育ちません。だからこそ、木の上で育った甘さを、そのまま食卓へ届けたいと思っています。

りんごとは別のかごに分けて、冷蔵庫でひんやり冷やして。口に入れた瞬間、冷たい果汁がジュワッと広がって、あとから甘さがじんわりほどけていく。潮風の届くハウスで、ひと夏かけて育った味です。

大切な人と「おいしいね」と分け合うひとときに、私たちのみかんが並んでいたら、こんなにうれしいことはありません。

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この記事を書いた人

HIRO&CHISA
HIRO&CHISA

大場農園の3代目園主で、みかん作りに没頭する職人気質なオット・HIRO。彼が綴るマニアックな栽培の記録を、妻の私CHISAが分かりやすくリライトしてお届けしています。
私が農家として暮らす中で「へぇー!」と驚いた発見や、美味しさの裏側に隠された秘密をまとめた夫婦の合作ブログ。この知識が、皆さんの「みかんを味わう時間」をより豊かにできますように。

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